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2019.August | OTHERS

業界歴30年のPRパーソンが考える「PRの今と未来」

市場のコモディティ化、メディアや情報入手手段、広告の多様化といった様々な社会の変化に伴い、生活者に情報を届けることが難しくなってきた現代。一方的なアプローチではなく、社会とブランドが手を握ること、つまり「PR」が重要視されるようになってきました。

本記事では、PR業界への転職を検討している方に向けて、この業界の現状や今後の動向、そして、そもそもなぜPRは誕生したのかなど、PR業界について幅広く解説していきます。

1. 年々拡大傾向にあるPR業界

PR会社の新卒採用市場は昨年比の倍以上

公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(以下PRSJ)が2019年5月9日に2018年度のPR業実態調査を発表しました。この発表をもとPR業界動向を分析していきます。
 
調査結果は、PR会社(PRSJ加盟PRエージェンシー202社)のうち71社からの回答をに発表されました。2018年度の売上高実績は約1290億円と前回調査の1016億円より大幅に伸びを示しています。回答を寄せた71社のスペックを分析すると従業員の平均は60.7 人(前回は44.8人)となっていますが、中央値は18人なので小規模エージェンシーと100人以上の規模に大きく分かれており、小規模エージェンシーの社数が多いことがわかります。従業員の男女構成比は男性46:女性54と女性従業員が上回る傾向が続いており、女性が先頭に立って活躍できる業界です。注目すべきは、新卒採用数が前年の平均3.9人から倍増して2019年春の採用は平均で8.5人と集計されていることです。今後も採用拡大は続くと思います。
 
一方、業務上の重要課題として上位に上った項目は、下記3つです。
 
1位:人材育成・確保(80%)
2位:新しい広報PR手法の開発(55%)
3位:業務そのものの質的向上(45%)
 
前回の調査結果と変わらない項目が同じ順位で挙がっています。異業種からの転職者も増えているので、人材育成は急務といえます。100人規模の大手PRエージェンシーでは新卒採用の拡大、小規模PRエージェンシーでは中途採用の拡大今後も続くと予想されています。
 
このように、PRの市場は拡大傾向にあるものの、広告業と比較するとその規模はまだまだ小さく、PRの重要性の理解深度に関しては課題が山積みです。けれども、実はアメリカをはじめとする海外諸国では、PRは経営戦略を考える上で欠かせない手法として重要視されています。
 
では、もともとPRは、どのような役割をもって誕生し、進化してきたのか。その歴史的背景を解説した上で、今後のPR業界を読み解いていきます。

2. PRは事業拡大における基盤として誕生

メディアを通じて、世論を操作する専門家

企業がメディアを通じて企業活動を正しく社会に伝え、社会との相互信頼関係を続けていく“パブリックリレーションズ”はアメリカで発祥した考え方・手法です。1800年代の後半になり、様々な企業や共同体、利益団体が新聞を通して自分たちの意見や活動を社会に訴えていくようになりました。新聞という強力なメディアの台頭により、メディアが世論形成に大きな影響力を持つと注目されるようになりました。これと同時に、市民も知る権利を主張するようになります。
 
アメリカ国内は中産階級の伸長、鉄道網の延伸による国内市場の拡大、成功を夢見る移民の流入によって経済成長を遂げていきます。自由競争の名のもとに、急成長した企業や経営者への批判や不満も高まってきたことにより、企業や資本家は大衆社会との対話によって支持を得ないと社会と事業を拡大していくことはできなくなっていきました。こうした時代の中で、PRは企業が社会との信頼関係をどのように構築していくべきかという大きな社会課題の解決手段として誕生。記事に対する反論や無視を続けていた企業はメディアとも向き合い、パブリシティの重要性も受け止めるようになりました。
 
1917年、アメリカは第一次世界大戦に参戦。当時のウィルソン大統領はジャーナリストやPRの専門家たちを招集して、参戦に向けた国民意識を誘導するために国家的なプロパガンダ活動を展開します。戦時中にこの手法を活用して国民の感情に訴えることで、参戦に有利な世論へと誘導しました。PRの専門家たちがメディアを通じて世論を操作したということです。もちろん、大きな過ちを犯したことは明白な事実ですが、戦後は真実を理性的にコミュニケーションし、社会との信頼関係を長期にわたり構築していくようなPR手法に進化していきました。
 
大量消費時代を迎えたアメリカではマスに訴えて消費活動を推進させるコミュニケーションの手法が磨かれていきます。「企業が大衆との相互理解を実現するための双方向コミュニケーションをマネジメントする手法」としてニュースリリース、報道発表、取材対応など現代のPR手法のシステムがアメリカで誕生し、日本にも戦後になって導入されました。

3. PR業界の動向予測

パブリシティ獲得の”その先”が重視されるようになる

日本は新聞、ラジオ、テレビ、インターネットの順でマスメディアが登場しました。このマスメディア形成の特徴は新聞社を頂点に子会社、グループ系列でラジオ、テレビが繋がっています。例えば、産経新聞→文化放送→フジテレビ→全国のローカル放送局といった“クロスオーナーシップ”といった資本関係で構成されています。社会議題(アジェンダ)に対する論調の差は多少あるにせよ、新聞をトップに単一言語で、時差なく、宗教差(問題)、民族差(問題)もなく、全国津々浦々に瞬時にニュースが駆け巡る国です。新聞各社がデジタルファーストに舵をったことにより、電子版発のニュースも瞬時にネット上を駆け巡ります。
 
新聞のみならず、インターネットでは様々なニュースプラットフォームを通じてニュースは伝達されていきます。AIの進化と共にデジタル空間での情報を自動転送させるシステムも活躍し、いくつものレイヤー構造をもった情報流通構造にニュースや情報が伝達されています。
 
そして、もっとも重要なことがニュースを受け取る側の(生活者)事情も大きく変容しているということです。マスメディアが瞬時にニュースを届けている中で、スマートフォンでもニュースや生活情報、娯楽情報が届けられています。膨大な情報量であることを人々は自覚しているため、その環境は、フィルターバブルエコーチェンバーといったものに変化しました。
 
情報氾濫時代に投入した今、ただパブリシティを獲得するだけの活動には意味がなくなってきました。情報を届けたその先で、どういった生活者の行動・態度変容があるのかということが重視されるようになっています。PR業界の拡大とともに、結果にコミットできるPRエージェンシー、PRパーソンへの期待はさらに高まっていくでしょう。

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※2019年8月時点の情報です。