働きながらビジネススクールへ。住む場所にとらわれない広報職との出会い
―まずは、斉木さんがこれまで歩まれてきたキャリアについて改めて教えてください。
斉木:新卒で大和証券に10年ほど金融業界に務めていて、主に営業を担当していました。新卒で金融業界を選んだ理由は、学生の頃にバックパッカーで15か国ほど旅をしているなかで、ニューヨークの証券取引所やそこで働く人々を見た際に素直にかっこいいと感じたからですね。大学1年生の頃に金融業界に進むことを決心してからは、すぐに外資系証券会社でインターンを開始。大学3年生の頃には証券外務員ライセンスを受験するなど、振り返ると意識の高いと思います(笑)。
また、わたしは大和証券への入社直後にリーマンショックを経験しています。会社が分社化したり、転職する人が相次いだりする環境を目の当たりにしながらも、自分にはまだ外に出て活かせるスキルや経験がないと感じて、夜間の大学院へ入学しました。当時は、働きながら二足のわらじ状態のなか月曜から土曜まで授業を受けていました。その後はUBS銀行で2年ほど働いたのち、結婚を機にシンガポールへ移住しています。
シンガポールでは、Credit Suisse銀行でプライベートバンカーとして勤務していましたが、夫が日本に帰国することになったことを機に、金融業界で営業職を続けることに限界を感じたんです。どうしても住む場所によって職場をリセットすることになってしまう。自身のスキル変革を意識し始めて、さまざまな職種をみるなかで広報職に出会いました。その後は未経験広報としてビットフライヤーに勤務。2年弱ほどひとり広報をしていましたが、会社の看板を無くした際の自分のスキルを試したいと感じてスタートアップ広報の副業をはじめました。
副業を通して、個の広報スキルで仕事ができるという自信が持てたので、フリーランスとして独立した直後、現在取締役副社長を務めているPRAS代表の佐藤さんと出会いました。当時は、マネジメント経験がないことに課題意識を持っていたので、初対面にもかかわらず、「CFOとしてならジョインしてもいい」みたいなことを話して参画したんです(笑)。その半年後に佐藤さんから取締役になってほしいと正式にお話をいただいて、現在はPRAS・取締役副社長としてマテリアルグループの皆さんとも一緒にお仕事をしています。また個人としては、昨年から社外取締役として他企業のマネジメントも兼務をしている状態になります。
マテリアルグループにジョインし、日々なにかを成し遂げようとする姿勢とエネルギーを感じる
―広報という職種にしっくりきたポイントは何ですか?
斉木:やはりリモートでも働くことができるイメージを持てたことが大きいですね。広報以外にもライター・エンジニア・デザイナーなどさまざまな職業を検討しましたが、自身のコアスキルにもマッチしていると感じたのが広報でもありました。金融業界の営業として難しい商品をいかに分かりやすくお客様に説明できるのかという部分を日々意識していたので、広報に求められるような“会社のなかで数ある情報を分かりやすく伝える、情報を加工して世の中ゴトと繋げる点”にも魅力を感じていました。
―マテリアルグループにジョインされてから感じることはありますか?
斉木:PRASはギルド型の組織なのでベテラン広報の方が多く、新入社員や若手メンバーが少ないのですが、マテリアルグループでは若手メンバーの皆さんとの交流機会が増えたことで学びが多いと感じています。全体的に、フレッシュに頑張る方たちがたくさんいますよね。それは仕事でも仕事以外でも、目標に向けて成し遂げようとする姿勢やエネルギーを非常に感じているので、何らかの形でサポートできたらと日々思っています。
海外勤務というマイノリティで働く経験を通して多様な価値観を得た
―斉木さんのキャリアのなかで、大きな転換期はありましたか?
斉木:金融業界の営業職からスタートアップ広報へのジョブチェンジは非常に大きな転換期だったと思います。コアスキルの面では繋がるも大きいですが、市場や職種の転換はやはりチャレンジでしたね。
また、これまでの仕事を通して良い経験になったのは海外で働いた経験です。国内にいるだけでは得られない“マイノリティで働くこと”の経験は、多様性のある価値観を身をもって体験するという点においても重要でしたし、良くも悪くも国籍や性別に問わられなくなったと感じます。金融業界からスタートアップへの展開においてもこの経験が活かされたと感じていて、まずは仕事はビジネススーツ必須という常識を変えたり(笑)、10分前厳守をやめたりと、相手に自分の価値観で期待しすぎるのではなく、自分が現地の文化に合わせていくことを意識していました。
何事もチャレンジして、キャリアを切り拓いていく。まずは飛び込むことも時には大切
―これまでのキャリアを歩むなかで、大切にされている軸はありますか?
斉木:わたしのなかでひとつの軸になっているは、“たとえ未経験でも何でもチャンレジして、キャリアを切り拓いていく”ということです。一般的には無謀に思えるようなことだとしても、とりあえず飛び込んでみる機会が多かったと思います。日系企業から外資金融への転職も、1年ほどの時間をかけていろいろな人に会いに行って、種まきをたくさん行っていくなかで繋いでもらえたんです。シンガポールへの移住後も、「職場を紹介してください」とたくさんの方々にアプローチを続けるなかで出会ったご縁でした。今年就任した社外取締役に関しても、ピッチ資料を自分で作成し、「わたしを起用してくれたらこういう価値を提供できます」とプレゼンをして回っていましたね(笑)。何事も臆することなく学びを通してアウトプットを続けていくというエピソードを繋げることで今の自分があります。当然、失敗するかもという怖さもありますが、失敗したときは他でリカバリーができたらいいんです。若いメンバーの皆さんも、まずは飛び込んでみることできっと世界が広がると思います。
―チャレンジを続けるなかで、苦労したことはありますか?その時にどのように壁を乗り越えたのかもぜひ教えてください。
斉木:英語がまったく話せないなかで海外に転職した際は、言語の壁に一番苦労したかもしれません。面接では英語を丸暗記して手元にカンペを仕込んで挑みましたが、面接官にチラ見していたことがバレて大笑いされてしまったこともあります(笑)。また、入社後のバンカーとしての資格試験や研修時には面接時よりも苦労しましたね。何度も試験に落ちてしまうので、最終的には自腹で受験費用を負担しているような状態でしたが、それでもなんとか合格できました。グループディスカッションやプレゼンで話していることはその場では聞き取れないので、すべてスマホで録音して、自宅で繰り返し聞きながら勉強していましたが、そうした時間を苦痛に感じたことはなかったんです。自分に刺激がないことや停滞していることの方が窮屈さを感じてしまいます。当然、性格もあると思いますが、新しいことを上書きしていきたいという意欲が高いのかもしれません。
現在はベトナムに住んでいますが、食事の選び方にもその価値観が出ていて、見たことのない食べ物やゲテモノ料理に心惹かれてしまうんですよね。たとえそれが不味くても、人に話せることが増えたなぁとポジティブに捉えられるかもしれません(笑)。
自分が望む環境がないと諦めるのではなく、うまく周りを巻き込んでいく
―仕事と子育てを両立するためのコツや意識されていることがあればぜひ教えてください。
斉木:自分自身の働き方は、パートナーや職場の上司・同僚など周囲の方々にきちんと協力を依頼することが重要だと思っています。わたしにはこんなハンデがあるから仕事にフルコミットできないと諦めるのではなく、うまく巻き込めるように働きかけること。何かできない状態に嘆くのではなく、まずは自分の希望を言葉にして伝えていくことが大切だと思います。
たとえば職場に関しても、建設的かつ意味のあるロジックをもとに、自身のバリューを発揮できる部分と環境をすり合わせていくことも意識してほしいなと思いますね。会議や新たなルールの提案など、自分自身がサステナブルに働くために「これは嫌だ」「辛い」ではなく「わたしがアウトプットを最大化するためにはこういう体制にしてもらった方が助かります」など、感情的な主張ではなく前向きな提案は発信していくべきですし、そうした実現のために何ができるのかをまずは考えることが重要です。
目の前の不安や悩みは薄まっていく。自身の価値観を客観的に知ることからはじめてほしい
―キャリアもライフイベントもとても充実しているように見えますが、実際に斉木さん自身の経験をもとにこれからキャリアの転換期やターニングポイントを迎えるメンバーに向けてメッセージをいただけますか?
斉木:わたし自身、やりたいと思ったことにチャレンジしてきた分、やらなかった後悔はあまりないんです。もちろん、結果的にまだできていないこともありますが、諦めなければそれは失敗にはならないので、“いつかやりたい”と思い続けられていたら、それでいいと思っています。「人生100年時代」とも言われている通り、長く続く人生のなかでできる活動はたくさん待っているはず。特に、若いメンバーの方々は、仕事や人間関係など日々悩むことも多いと思いますが、年を重ねるごとにそれらの悩みは多分薄まっていきます。今、目の前で不安だと感じていることは、年齢やライフステージが変わるごとに案外薄まっていくんだという価値観も取り入れてみてほしいなと思いますね。
また、アンガーマネジメントやストレングス・ファインダーは個人的に非常にためになったと感じているので、ぜひ試してみてほしいことのひとつ。若いうちに知れていたらと思う発見もありましたし、自身の適正についてコアスキルや価値観を客観的に知ることのできる自己分析ツールは早いうちから活用して損はないはずです。数ある自己分析ツールのなかでも、きっとなにかひとつは自分のなかに腹落ちするものに出会えるはずなので、若いうちにぜひ客観的視点を参考にしながら自身のキャリアイメージを膨らませてほしいなと思います。
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