MATERIAL MAGAZINE

2020.November | MAKE NEW

PR市場の“MAKE NEW”を目指して。小林GMを迎えたマテリアルSTCチームの挑戦

マテリアルマガジンをご覧の皆さま、こんにちは。2018年入社&PR GENIC編集長の森奏子です。

今月1日、マテリアルの頭脳である“ストーリーテリングセンター”に、小林秀行 新GM(=ゼネラルマネージャー)が就任しました。小林は、30歳の頃からPRの道を歩み始め、2012年にマテリアルに入社したのち、2015年にTBWA HAKUHODOへ転職。それから6年の年月を経て、今年の11月より再びマテリアルに加わりました。

今回は、小林GMの就任を記念して、元ストーリーテリングセンターGMで、現在執行役員兼ExecutiveStorytellerの関 マテリアル 航 との対談を実施。小林がマテリアルにカムバックしてきた経緯や、マテリアルのビジョンである「MAKE NEW PR」が目指すもの、また小林GM率いるストーリーテリングセンターの展望について伺いました。
(6年前に、関のマテリアル入社と入れ替わりで小林が卒業しました。)

マテリアルが目指す「MAKE NEW PR」とは

対談者プロフィール

関 マテリアル 航 : 執行役員兼ExecutiveStoryteller

小林 秀行 : ストーリーテリングセンター ゼネラルマネージャー

 

マテリアルが掲げるビジョンについて教えてください。

関:マテリアルは「MAKE NEW PR」をビジョンとして掲げています。今の日本では、PRと聞くとプレスリリースやメディア露出などと解釈されることが多いです。しかし、それらは「パブリシティエグゼキューション」=HOWのひとつでしかなく、「パブリックリレーションズ」という発想の概念と混在させてはなりません。本来のパブリックリレーションズが担うべき役割を突き詰めることで、価値の対価に人はお金を払うという、資本主義社会の経済合理性のルールにのっとりつつ、モノコトが飽和した難しい世の中においても、社会を舞台にブランドとコンシューマーを望ましい関係で結ぶことができると思っています。
 
ここ数年で、日本にもPRという概念自体は普及しましたが、まだその価値は低いのが現状です。僕自身が会社経営を行う立場になり、様々な経営者の方と情報交換をするようになった中で、経営会議で“PR”がアジェンダとして語られている企業は、現状ほとんど存在しないことを実感しました。経営会議では多くの場合、PL(損益計算書)の営業利益に紐づいて、戦略の良し悪しの意思決定がしやすいように、様々な“数字の指標”が出てきます。特に、PLにおける Loss(コスト)の項目では、コスト割合が多いものであればあるほど、その費用対効果を問うための指標として、議題に上がりやすいはずです。しかし、そのような場面においても、そもそもPRは「その他販管費の一部」のような位置付けになってしまっています。
 
小林:ここ数年で、広義のパブリックリレーションズも業界の中で徐々に定着してきましたね。しかし関さんのおっしゃるように、今のPRはまだ狭いマーケットの内側に収まっています。
 
関:PR業界の仕事も、正直まだまだ不自由だと思っています。だから諦めるのではなく、マテリアルが「MAKE NEW PR」というものをビジョンとして掲げて、パートナー企業の事業の可能性を広げるための“PRの在り方”を突き詰めていく。様々な活動を通じてPRの価値を高め、PRをもっと自由にする。それらを成し遂げた上で、最終的には日本の経営の中心にPRを位置付けることを目指しています。
 
少し極端ですが、例えばCPA(顧客獲得単価)の効率化って、普通にやっているだけでは、多くの場合ある一定で限界が来てしまうと思うんですよね。理由はシンプルで、前提としてほとんどのカテゴリーでモノコトが飽和しているため、消費者側にはあえて特定のブランドを強く欲する必要がないからです。そのため、「わざわざ買いたい」「わざわざ調べたい」「わざわざ知らせたい」などといった、ステークホルダー側の知覚をコントロールして、認識と行動を動かしていく必要があります。このような“知覚のツボ”となる変数を動かし、「ある平均値」に対してレバレッジを効かせていくことは、多分パブリックリレーションズの発想でしかできないと思っています。このような考え方を一般化させるのは簡単なことではありませんが、確固たるスタンスを持って、世の中に対してしっかり示していきたいです。
 
小林:「MAKE NEW PR」という標榜は、ともすると “PR市場の中でPRの地位を上げていこう” というテーマに聞こえるかもしれませんが、決してそういう話ではない。本来PRが戦うべき市場は、既存の広告市場の “内側” ではないはずです。そこから抜け出すためにも、世の中で起こっている事象を捉えたときに「PR」の考え方の重要性を説いていかなければならないと考えています。販促や広告宣伝の部門がPRセクションを持つのではなくて、より本質的なマーケティングのために、PR会社が表現の方法を広げていくことが重要ですよね。
 
関:そのためには、これまで様々な捉えられ方をされていた、この業界におけるPRの考え方もリスペクトしつつ、そこからのステップアップとして“広義のPR”を理解していかなければなりませんね。

グローバルエージェンシーからPR会社に戻ってきた理由

このビジョンの実現に向けて、11月からマテリアルに戻ってこられた小林さんには、どのようなことを期待されていますか?

※写真撮影時のみマスクをはずしています。

関:ありがたいことに、最近大手総合広告代理店からマテリアルにジョインするメンバーが増えました。その中でも特に小林さんは、会社をもっとアップデートするために欠かせないキーパーソンのひとりでした。
 
この会社は、平均年齢が20代と非常に若いため、良くも悪くも “固定概念” がなく、勢いがあります。小林さんが以前マテリアルに勤めていらっしゃった6年前、まだメンバーが15名ほどしかいなかったときと比較しても、人数規模から提供できるソリューションまで、本当に様々な部分が変化したと思います。このように目標に向かって突き進む力はあるのですが、それと同時に、若いスタッフのエネルギッシュなチャレンジに対して、環境づくりや意思決定のサポートをできる人材も必要でした。特に、PRのスキルと多くの経験を持っていて、何よりも型にはまらず、PRのパワーを信じ続けている”ベテラン”がこの会社には不可欠だったんです。
 
これから小林さん率いるストーリーテリングセンター(以下、STC)内だけでも、新たなセクションがたくさん増えていくと思います。それも加味した上で、小林さんにはPRの視点を持ちつつ、様々な領域をマネジメントして正しい方向に導いてほしいと思います。僕もこの業界で様々な人に出会いましたが、小林さんほどのPRオタクはなかなかいないですよ(笑)向かうべき方向に対して的確なジャッジができる人がいることで、若いパワーが円滑に回っていくと感じています。
 
小林:僕の前職である TBWA HAKUHODO は、本当に素晴らしい会社でした。クライアントの課題に対してワンチームで取り組む文化が根付いていて、スーパーフラットにアカウントと様々な職種のクリエイティブが知恵を出し合っている。この経験で非常に視界が広がり、6年間で様々な世界を見せてもらいました。
 
関:特に小林さんの場合、得意先に対してPRを通じた価値提供を行いつつ、非常に多くのPRエージェンシーともお仕事をされていました。第一線でご活躍されながら、クリエイティブとPRを融合させるノウハウを持っていたり、幅広い交友関係を持っていたりするので、これから小林さんがどうマテリアルの若いパワーを推進されていくのかが楽しみです。
 
小林:TBWA HAKUHODO では、有難いことに PR-Head として多くの機会をいただきました。それに伴い、様々なPR会社さんともお仕事をさせていただきました。ただそんな環境の中で、クライアントの課題に対する解決策のひとつとして「PR」を行うのと、より根本的なレベルから「PR」として世の中と繋がることを前提にプランニングを行うのとでは、描ける像が違うことに気づいたんです。今は、数ある手段の中のPRではなく、「世の中とどうコネクトするか」「どうブランドの顔つきを作るか」というPRの考え方が先にあって、そこから具体的な施策やクリエイティブに落とし込んでいくことが重要なのではないかと。それに挑戦したくなったので、マテリアルに戻ることを決意しました。
 
この6年間の外での経験をそのままマテリアルの若手社員にインストールすることは、自分にしかできない重要な役目だと思っています。また、この業界のことを知り尽くしている本田哲也さんのような方も、マテリアルに意見を下さったり一緒にお仕事されたりしていますよね。このような外部のナレッジを取り入れていくことは、会社にとっても大きな力になると思います。

なぜおふたりはPRの可能性を信じていらっしゃるのですか?

小林:PRがいちばん自由だからですかね。PRは自由かつ本質的であるべきですし、もっとそうしていきたいです。キャンペーンなどの施策の多くは、“ワンクリエイティブ・多チャンネル発信”ですが、PRの発想を持っていれば、“ワン思想・バリエーションクリエイティブ” で考えることができます。
 
関:PRは手段や手法のような“HOW”ではなくて、“発想の仕方”そのものですよね。事業会社の思想に基づきながら、あくまでも“パートナー”としてどうブランドを伸ばしていくべきかを考えた際に、一番重要な思想ってパブリックリレーションズではないかと思うんですよ。
 
小林:あるものを誰かに理解してもらいたいときって、ストーリーを作るじゃないですか。このお水にはこういう背景があって、生産者にはこういう想いがあって…という感じで。
 
ストーリーを作ること自体は恐らく誰にでもできるんですけど、そのストーリーの中の足りないシーンや、足りない登場人物、足りないセリフなどに気づいてそれを補うことは、PR会社ならではの役割ではないかと思います。全体のストーリーでこの部分が足りないから、こういうキャンペーンをしましょうとか、ここが足りないからこういうファクトを出しましょうとか、そういった提案の仕方ができますよね。
 
関:そのストーリーを適切に補うために、我々は常に多様なチャンネルを持っていなければならない。今はまだ、そのエグゼキューションが“メディア露出”に固執しすぎているので、あくまで武器のひとつとして“メディアを通した視点”も持ちつつ、その武器を活かしてどう戦えるかが重要です。
 
小林:そうですね。“メディアを通した視点”は、PRパーソンの強みとして持ち続けるべきだと思います。メディアは視聴率で勝負しているので、世の中の動きを最もダイレクトに受け取っている。そんな“世の中の目利き”であるメディアの視点を持っていることは、PRパーソンにとって大きな武器であることには違いありません。だから、広義のPRを見据えつつその中のアンテナのひとつとして、僕らはメディアを媒介した世の中の見え方も捨てずに持っているべきだと思います。

小林GM率いるストーリーテリングセンターの展望

これからSTC内のセクションが増えていくというお話もありましたが、小林さんのSTCゼネラルマネージャーとしての今後の展望を教えてください。

小林:入社後、STCのプランナーたちと1on1を行っていく中で、「PR会社の人間は、営業も含めて全員ストーリーテラーであるべき。その中でSTCのプランナーは、より専門的で多チャンネルで、強い意志と方向性を持ってプロジェクトメンバーを束ねていくような人になっていかなければならない。」と伝えています。広告代理店で言う“クリエイティブディレクター”のような役回りを、STCメンバーが担ってほしいと。彼らには、メンバー全員に大きな道筋を見せられて伴走できる人、まさに“指揮者”みたいな人を目指してもらいたいです。
 
キャスティングチームに関しては、一日も早くマテリアルから「キャスティング」っていう名前を下ろしたいと思っていて。ただ芸能人やインフルエンサーをアサインする人ではなく、インフルエンス力のある人達をどう見極めて、どう束ねていくかっていうところの、“プランニング”をする人になってほしいと思います。
 
関:そうですね。キャスティングチームに関しては、トライブマーケティングコンサルタントっていう立ち位置をとっていかなければなりませんね。
 
小林:メディアチームに関して言えば、“メディアを通してパブリックを見られる存在”になってほしいです。メディアを通して見る“世の中の動き”や“価値”を因数分解して、それらをうまくチームの中に蓄えられれば、社内の様々なセクションに良い知見が行き届き、さらにいい循環が生まれていくと思います。
 
関:媒体によっても情報の捉え方が全然違いますもんね。これまでは、“メディアバリューってなんだろう?” というざっくりとした議論になっていましたが、そこがもっとクリアになることで、より適切にメディアを選択し、より的確に情報を届けられるようになるはずです。それに、“メディアバリュー”自体もHOW寄りの話であって、結局最終的に動かしたいのは、その先にいる生活者なんですよね。その視点に立って、さらにコミュニケーションの在り方を突き詰めていく必要があると思っています。
 
小林:それこそ「トライブ」の考え方ってこれからの時代には必ず必要で、ターゲットとなりうる全てのトライブの動きに注目しながら、最もリアクションしてもらえやすい「切り口」や「ストーリー」を作っていかなければなりません。
 
メディアを通じてパブリックの動きが分かる、トライブを通じて世の中の関心が今どこに向いているのかが分かる、そんな様々なアンテナを常に張り巡らせることも、STCが担うべき役割のひとつですね。それらのチャンネルを駆使しながら、プロジェクトを全体統括していく力も兼ね揃えたチームを作っていきたいです。いま大ヒットしているモノや出来事も、世の中で起こっている事象は全て、パブリックリレーションズの考え方でリードしていけるのではないか…といったことも考えてしまいます。

PR GENICにて、STCメンバーが“『鬼滅の刃』の大ヒット要因”を探る対談記事を公開中!

「ストーリーテリング」「メディアプランニング」「トライブマーケティング」の三つの要素から『鬼滅の刃』大ヒットの要因を探るため、STCの各部門代表メンバーによる対談を行いました。

 

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※2020年11月時点の情報です。