MATERIAL MAGAZINE

2021.March | MAKE NEW

日本のスタートアップ企業を世の中と繋ぐ。誰もがPRに挑戦できる社会を目指して。|『J-Startup』経産省対談

マテリアルマガジンをご覧の皆様、こんにちは。マテリアル2018年入社広報担当の時田です。

マテリアルグループ傘下であるマテリアルとコネクテッドマテリアルは、2021年1月20日より、経済産業省が主催するスタートアップ企業の育成支援プログラム「J-Startup」に、⺠間サポーターズとして参画しました。

今回のマテリアルマガジンでは、サポーターズ企業参画を記念して、経済産業省 経済産業政策局 新規事業創造推進室の稲舟基久氏と、マテリアルグループ代表の青﨑曹の対談を実施。日本のスタートアップ企業が実際に抱えている課題や、今後のPRの可能性について語っていただきました。

■対談者プロフィール
稲舟基久:経済産業省・経済産業政策局・新規事業創造推進室・係長
J-Startupプログラムをはじめとしたベンチャー、スタートアップエコシステムの強化に従事。
 
青﨑曹:マテリアルおよびマテリアルグループ代表取締役社長
マテリアルの主要アカウントのプロモーションからPRまで多岐の領域を担当。2019年の代表就任後は、PRエージェンシーとしての新しいビジネススキームの創造、ケイパビリティの開発に従事。

1.「J-Startup」の活動について

3者共同で多角的支援をおこなう「J-Startup」

ー「J-Startup」が発足した背景について教えてください。
稲舟:「J-Startup」は、2018年6月から始まった官民プロジェクトです。従来のスタートアップ支援は、日本全国すべてのベンチャー企業を対象とした成長支援という一般的なスタイルでした。しかし、その方法では約15,000社あると言われるスタートアップ企業に対して平等な支援はできるものの、政府のリソースが限られている中では満足な支援ができず、砂漠に水を撒いているような状態そこから芽が出てくるスタートアップ企業は、なかなか生まれにくい状況でした。そうした背景があり、当時の経産大臣の肝入りプロジェクトとして始まったのが「J-Startup」です。ある種のカテゴリーにおいて高い技術力を持つ企業や、海外に打ち勝つ可能性を持つ企業などを推薦委員が選定し、選定企業に対して官民を挙げて集中的にリソースを投下することで、成長支援を行っています。
 
ー「J-Startup」が行っている支援内容について教えて下さい。
稲舟:「J-Startup」事務局の構成として、母体である経産省と、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)そして、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の3者が共同支援しています。具体的には、各種税制優遇や、政府調達案件の解放、サポーターズ企業との共同イベントや、支援セミナーの開催などです。また、JETROでは「海外展開支援」を目的に主要国に設置しているハブを使った情報提供や、『J-Startupツアー』と称して、海外の主要カンファレンスへスタートアップ企業をまとめてお連れして、『ジャパンパビリオン』という形で日本代表としてパッケージ化することで、目立たせる仕掛けをしています。NEDOが行っている支援としては、「国内開発支援」を目的とした補助金関連の優遇や、『ILS』というスタートアップイベントを開催するなど、スタートアップエコシステム全体を盛り上げる施策を行っています。

他国に負けないディープテック企業の支援を強化する

ー「J-Startup」の今後の展開はなにかありますか?
稲舟:2020年11月からは、「J-Startup」の地域展開を始めました。現在は、北海道、東北、関西、セントラル(中部)の4つの地域で展開しており、これらの地方事務局でも、地域の有望なスタートアップ企業を選定し、そこに対して集中的に支援するという同様のプログラムを提供しています。
 
そもそも地域展開の背景として、現在「J-Startup」に選定されている139社のスタートアップのうち、約75%が東京の企業なんです。もちろん、東京に有望なスタートアップ企業が多く集まっていることは間違いないのですが、それにしても偏重がありすぎるのは良くないことですよね。選定方法においても、推薦を行っていただく委員が、東京に根を張っている方であることが非常に多いため、偏ってしまうのは無理もありません。
 
しかし、今後さらに海外展開を進展させていくとなると、やはりディープテックで確固たる独自の技術があり、他社には真似できないような価値ある企業を伸ばしていく必要があります。そうなれば、地方大学発の優秀なスタートアップ企業などにスポットライトが当たりやすくなるはずです。また、選定方法も、それぞれの地方事務局がその地域に根を張った推薦員の意見をもとに企業を選定するスタイルをとっており、規定の売上や設立年数などは定めていません。
 

2.スタートアップ企業に本当に必要な支援とは?

世界と比べるとまだまだ負けてしまう日本企業

ー日本のスタートアップ企業が実際に抱えている課題にはどのようなものがありますか?
稲舟:スタートアップ企業の課題は多種多様ですが、世界と比べたマクロ的な視点では、やはり人材面や設備面、イグジットの手法などの課題を抱えているケースが多いです。最も顕著なのは、“リスクマネー”の圧倒的な差ですね。例えば、日本のベンチャーキャピタルの年間出資金額は約3,000億円程度と言われていますが、アメリカでは15兆円程度あります。そのため、似たようなサービスで海外展開する場合、やはり札束のたたき合いでシェアが取られて負けてしまいます。
 
一方でミクロ的視点では、日本は世界と比べて小さいマーケットだと思われがちですが、実際は1億3,000万人の人口があり、それなりに大きなマーケットです。かつ、日本語の難しさと日本独特の文化が相まって、海外の競合企業が日本産業に参入しにくいという障壁を作っています。そもそも海外展開を視野に入れず、ビジネスモデルを設計する段階ですでに、日本国内にだけにコミットしようとする風潮があります。こうした閉鎖的な課題は、スタートアップ企業全体に言える課題かなと思います。
 
青﨑:芯をついた課題ですね。まさに、日本企業でよく見られますよね。

技術力に差はなくてもPRの力で差が生まれてしまう

ーこれまでに日本企業のアピールがうまくいった事例やポジティブな側面が見えたことはありますか?
稲舟:海外のカンファレンスでは、各企業がそれぞれ申し込みをした上でブースへの出展を進めていくのですが、世界各国の企業が多く出展している中ではどうしても注目を浴びることができず、集客にも繋がりませんでした。そこで、『J-Startupツアー』と題して出展企業を「日本」という大きな括りでアピールしたことにより、実際の集客にも繋がりました。世界で戦う時に、日本というひとつのまとまりにすることでより注目されやすくなったのだと思います。また、メディア関係者とのリレーションを駆使して、カンファレンス前日には記事化もしていただき、当日の集客まで繋がる仕掛けとなりました。
 
ーPR視点で見た際にスタートアップ企業が抱える課題は何だと思いますか?
青﨑:スタートアップ企業において最近感じることは、例え技術力の差がないとしても、「経営者自身の発信が上手い企業」と「そうではない企業」では、世の中からの注目度や、集める資金の金額に差異が出るということです。
 
稲舟:まさしく仰る通りだと思います。特に、地方大学発ベンチャー企業には多く見られますね。例えば、社員数が50名を超えるようなスケールの企業でも、“PR人材”がいないので、法務が兼任しているといったはよく聞きます。加えて大学発企業であるため、高い技術力を持っているものの、プロのPR人材がいないがために資金集めに苦戦したり、せっかくプロダクトをローンチできても、それがうまく波及されなかったりと、広報活動に対して課題意識を抱えている企業はとても多いです。「うちにはHPすらないんです。」なんても聞きますね。一方で、企業の本音として、プロのPR人材を雇うのであれば、そのリソースを研究開発に注ぎ込みたいというジレンマがあるのも事実です。そこに対してスポット的なPR支援継続的に行えること非常に重要だと感じます。
 
青﨑:プロのPR人材の不足はまさに多くのスタートアップ企業が抱える課題ですね。
 
稲舟:また人材面以外にも、日本人特有の引っ込み思案が影響していることはありますね。例えば、サポーターズ企業がスタートアップ企業にアプローチしたり、イベントを開催したりしても、「自分たちのような企業がそんな有名な大企業と肩を並べて登壇してもいいのか?」と、謙遜する企業が意外といます。技術力に重きを置きすぎてしまい、広報活動に踏み込めない企業が多いことも、日本特有の課題かなと思います。
 
青﨑:確かに、より多くの人にモノコトを発信するのは非常に勇気がいることだと思います。SNSが普及した影響で情報発信の手段は増えましたが、様々なリアクションが生まれるため、初めてPRに取り組む企業にとっては心理的にブレーキがかかってしまうこともありますね。

PRはスタートアップ企業たちの“翻訳機能”を担っている

ーPRの必要性はどういった点でより強く感じますか?
稲舟:例えば、ディープテックのような技術力が高い製品であればあるほど、伝え方が専門的になりがちで、かみ砕いて説明しなければ理解してもらえないような製品も多くあります。そういった点も課題の1つなので、専門的な部分をより分かりやすく説明して、世の中に受け入れられやすいコミュニケーションができるとまた違ってくるはずです。
 
青﨑:PR人材が世の中やステークホルダーに対する翻訳機能を担うことができると、価値を有した企業の評価や期待感はさらに上がっていきますね。
 
稲舟:その通りですね。実際に、地方大学発のスタートアップ企業も「J-Startup」には多く選定されているため、訪問した際に製品を見させてもらう機会もあるのですが、製品や技術力自体はとても面白いんです。例えば、ある岩手の企業は、電極を水の中に埋め込むことで魚群を誘導できる技術を持っていて、これを使えば小さい魚と大きな魚を仕分けて誘導することができます。そのアイデアを上手くビジネス化して、養殖業界などに導入していたりと、利用方法は多岐に渡ります。他にも、『空飛ぶ車』や『人口流れ星』を開発しているような、ユニークな企業も多く存在していて、まだまだ埋もれている面白い技術は日本にたくさんありますね。

3. スタートアップと世の中の橋渡し的存在を目指して

PRをより開かれたソリューションにするために

「J-startup」への参画を通して、これから実現させていきたいことを教えて下さい。
青﨑:誰しもが簡単にPRというソリューションにアクセスできる状態を作っていこうと考えています。ツールの進化や一般化が進んだPRは、スペシャリストを採用したり、PR会社に外注できたりする“特定の企業だけが取り組むもの”として捉えられることが多いです。そこに対して、広報初心者や他の業務と兼任されている方でも簡単にPRに取り組めるツールを提供できれば、PRはより開かれたものになっていくと思います。
 
PR会社である我々がスタートアップ企業に向けて具体的に支援できることは、共通化されたプラットフォームの中で、メディアの知見を提供したり、ウェビナー開催したりするなど、多種多様です。広報のプロフェッショナルがいない企業だとしても、より多くの企業がPRという武器を使いこなせる状態を目指します。
 
また、私が今回「J-Startup」に参画した背景には、自分自身の経験も影響しています。私がマテリアルにジョインした時点では社員数がたったの3名でしたが、今では約200名を超える規模の企業になりました。会社の規模や価値が大きくなることで、見える景色が変わり、企業としての選択肢が大きく変化していくのを体験しました。無論、企業規模や価値だけがすべてではありませんが、挑戦するスタートアップ企業を1社でも多く支援していき、選択肢を増やすパートナーとなっていきたいと思います。

「J-startup」がマテリアルグループに期待すること

ー「J-Startup」がマテリアルグループに期待することは何ですか?
稲舟:複数の企業に対して「PR/マーケティングコンサルをします」という提案をいただいたサポーターズ企業はこれまでになかったので非常に嬉しいです。また、PRのプラットフォームなども同時に使用できるとなると、広報課題を抱える企業にとって大きなメリットになります。今後の連携を通して良い成功事例を作れると、スタートアップ企業も希望が持てるので、そこにはとても期待しています。
 
青﨑:ありがとうございます。日本には優れた技術やアイデアがたくさん埋もれているからこそ、PRの力を駆使することで、そうした企業を世の中に伝えていく支援していきたいと思います。スタートアップ企業と世の中の橋渡しのような存在になることを目指します。

※2021年3月時点の情報です。

マテリアルグループ広報 時田友里香

マテリアルグループ広報 時田友里香

マテリアル2018年入社の広報担当。好きな食べ物は羊羹。広報業務のほかMATERIAL MAGAZINEの執筆を担当しています。世の中のひとがもっともっとマテリアルグループを知って、好きになってもらえるよう日々勉強中。