■対談者プロフィール
青﨑曹:マテリアルおよびマテリアルグループ代表取締役社長
マテリアルの主要アカウントのプロモーションからPRまで多岐の領域を担当。2019年の代表就任後は、PRエージェンシーとしての新しいビジネススキームの創造、ケイパビリティの開発に従事。
佐々木忍:株式会社フリップデスク代表取締役社長
新卒で楽天に入社し、新規出店営業と事業開発を経験。約7年勤めた後、IT系のスタートアップを経て、前株主であるDECEMへ入社。事業開発、経営企画を経験する中で、Flipdeskのサービス運営権取得のM&Aに関与。サービス取得後、運営主体となる株式会社フリップデスクを設立し代表に就任。
着実に収益を伸ばし続けるフリップデスクの魅力
ーおふたりの出会いやM&Aのきっかけについて教えて下さい。
青﨑:佐々木さんと初めてお会いしたのは、2019年の秋頃でした。当時フリップデスクを保有するグループ会社がM&Aを検討しており、その流れでマテリアルグループに紹介されたことがきっかけです。その際に、フリップデスクの企業紹介をしてくれたのが佐々木さんでした。他にも数社お話を伺ったのですが、当社のCFOと「フリップデスクに圧倒的な魅力を感じましたね。」と話したことを今でも鮮明に覚えています。もちろん、佐々木さん自身の魅力もありますが、フリップデスクのビジネスモデルと利益を着実に伸ばしている点も非常に魅力的でした。フリップデスクのグループ参画は、マテリアルグループのデジタルケイパビリティの獲得にも繋がり、既存ビジネスの進化も実現できると確信しました。
ー今回M&Aにチャレンジした背景は何ですか?
青﨑:マテリアルグループは、これまでPRを事業ドメインとして成長してきましたが、隣接市場においても更なる進化と成長を実現するために、今回の資本業務提携を決断しました。事業面では、お互いの顧客に対する提供価値の向上を感じられたことが大きいです。また、組織面では、フリップデスク単体でIPOを目指すよりも、既に環境整備をある程度終えているマテリアルグループと一緒になることで、時間とコストを大幅に削減出来ることも大きなメリットになると考えました。
また、会社が一緒になるということは、双方にとって強い覚悟が必要です。今回のような重要な意思決定において、佐々木社長、そしてフリップデスクでなければ、今回の資本業務提携はなかったと思えるほど、お互いに強い覚悟を持てたことも重要な要素でした。
単体ではなくグループ企業としてIPOを目指す
佐々木:もともとフリップデスクが参画していたグループ会社の構成としては、親会社1社+子会社4社の合計5社の組織でした。その中で、個社単体では増益・増収を続けていましたが、グループ全体としては伸び悩んでいました。そのため、私の中では、「グループから離れ、独立した会社運営が出来ないか」と考えていたんです。その後、グループ全体の動きもあり、2020年秋頃にはフリップデスク単体でIPOを目指すか、マテリアルグループと一緒にIPOを目指すか、という2択を検討する状態になっていました。
また、当時の社内では、競合他社の煌びやかなIPO等が話題を呼んだ時期でもあったため、「単体でIPOを目指したい」という意見が多かったんです。しかし、アドバンテッジパートナーズを含むマテリアルグループは、最初のオファーの時点から、我々にとって最も良い内容だと思えるような、気持ちの良い提案をして下さりました。大抵のM&Aは、交渉を繰り返し、お互いに譲歩しながらいい塩梅で着地することが多い中、マテリアルグループの心意気に惚れたことは重要なターニングポイントでした。
また、PR会社としてのポジションを確立しているという魅力はもちろんですが、青﨑さんや他の社員の方々と関わる中で、「この人たちと一緒ならいい仕事ができそう」という期待が大きくなり、最終的にマテリアルグループと一緒の未来を選ぶことを決めました。
青﨑:M&Aのプロセスでは、お互いに虚勢を張ることがありますが、佐々木さんとはお互いに背伸びすることなく最初からオープンになれたからこそ、良い関係を構築することが出来たのだと思います。
両社は、事業内容だけを見るとお互いの延長上にはあるものの、そのままでは距離のあるビジネスです。そのことも包み隠さずお伝えしたことも双方で信頼を築くことができた要因だと思います。その結果、グループへ参画してすぐにいくつかの仮説が生まれていますし、当時の判断は間違っていなかったと感じています。
上流から下流までのブランド体験を設計する
ーPR×CXの可能性をどう捉えていらっしゃいますか?
青﨑:例えば、洋服を買うシーンにおいて、まだECがなかった時代にタイムループしたとします。PRは、その当時の雑誌のような存在です。雑誌は、商品の機能的価値のみを訴求するのではなく、オケージョンを含めた情緒的価値を訴求し、ストーリー性を持ってブランドを紹介します。もちろん、PRが持つ機能はそれだけではありませんが、理想的なブランド理解と好意度を作ることの例示としてみて下さい。雑誌を読み、理想的なブランド理解と好意度が高いお客さんが、いざブランドのお店に足を運んだ際に、「商品の場所が分からない」「店員の接客態度が悪い」「空調が効きすぎて洋服を買うどころではない」等の体験をした場合、購買意欲はどうなるでしょうか。
その場の環境に問題があるせいで、「買わない」という選択に至ることは往々にしてあると思います。モノを買うときの体験が「悪い体験」になった途端に、ブランドに対する好意度までもが失墜してしまいます。しかし反対に、買い物のシーンで「良い体験」を提供することが出来れば、ブランド好意度は向上します。この「良い体験」をオンライン上で実現するのが、CXの役割です。
また、日本のEC化比率は、主要先進国と比較すると、未だ大幅な伸び代を残しています。これからの時代は、僕たちが作ったストーリーをWEBサイト上で表現し、良質な接客を実施し、顧客が買い物を楽しめるように誘導することで、ブランドの体験価値を高めることが出来ます。このように、PRとCXを融合して捉えていただくためにも、サクセスケースを生み出し、クライアントのビジネスを伸ばしていきたいと考えています。
また、近年では、新型コロナウイルスの影響もあり、WEBサイトが果たすべき役割と価値が高まっています。このような社会背景も踏まえ、あらゆるクライアントに対して、PR×CXのソリューションを提供出来るチャンスは拡がっていると感じています。
佐々木:WEB接客ツールの活用例の一つをお話します。ユーザーが一度サイトを訪問し、何も購入せずに離脱したとします。そのユーザーが数日後にサイトに再訪問した際に、「閲覧履歴」まで誘導し、当時の記憶を喚起させることで、初回購入が大きく上昇するという実績が、多くのサイトで実証されていますこのように、一度サイトに訪問したことのあるユーザーに対して、購買意欲を向上させる効果は期待できますが、まだ一度もサイトに訪問したことがないユーザーに対しては、何もアクションが出来ません。そのため、ユーザーが“商品を手に取る動機付け”も作れるマテリアルの事業は魅力的です。
PRの新たな“評価指標”を作ることでシナジー効果が生まれる
ー今後生み出していきたいシナジー効果について具体的に教えて下さい。
青﨑:デジタル領域をマテリアルグループに取り入れたいと考えていた理由の一つに、PR業界特有の「広告換算値」があります。広告換算値は、メディア露出を広告費用に換算して数値化するものですが、この広告換算値は本来、“何となくの目線感”を図るものでしかないんです。しかし、現状のPR業界の主な指標は、この「広告換算値」しか存在していません。
一方で、フリップデスクのサービスは、どの施策がどれだけ売上に直結したのか、数値的根拠を持って分かります。今までのPRは、仮設を基に施策を実施し、最終的にリザルトを出して答え合わせをしていましたが、フリップデスクとの融合により、意図した成果の創出や、成功要因の特定が出来るのではないかと考えています。これにより、誰もが欲しいと思っていた“PRの新たなインデックス”の答えを導くことが出来るかもしれません。両社で一丸となってPRの新しい評価指標を作ることができた際には、エージェンシーとしての新たな価値を示すことができると思っています。
佐々木:昨年末に、あるアパレルブランドのECサイトで福袋の販促企画を実施しました。商品は、毎年即日完売するほど話題性が高いのですが、サイト上で先行予約の申し込みが開始された際に、『めざましテレビ』や『Yahoo!ニュース』にまで取り上げられました。その結果として、ECサイトへの訪問者数が飛躍的に跳ね上がったんです。私たちも福袋の仕掛けを認識していたので、サイト訪問者の目的がその商品だと判断することが出来ます。さらに、該当商品ページへの誘導を強化した結果、販促施策のさらなる効果を引き出し、売上アップに大きく貢献することが出来ました。
今後、両社が一緒に取り組む中で、PRの一環としてキャンペーンを仕込み、それらが露出された際の受け皿(ECサイト)の中で、ユーザーの目的を最短で満たすことが出来れば、ブランドの売上アップまで支援することが可能です。
青﨑:特に、私たちのようなPRエージェンシーは、キャンペーンを設計・実行して話題化させるまでは得意ですが、その後の業績成果に対しては領域外になってしまいがちです。しかし、そこまで意図して企画を設計し、話題化だけでなく売り上げや収益向上まで繋げることができれば、他社にない新たな価値を提供することが可能になります。
佐々木:それは、クライアントにとってもメリットの大きい話ですよね。企業の広報部門は、対外的な訴求方法を決める役割の人と、実際に顧客に売る役割を持つ人が分断されていることが多いです。例えば、家電系メーカにおいては、ECサイトの中に「商品説明動画」を載せると売上が向上すると言われています。実際に、ある家電メーカーでEC用動画を作ろうとしたところ、企業広報から「テレビCMの動画を使い回してほしい」と依頼が来ました。しかし現場からすると、CM用動画はECサイトのテイストに合わない上に、消費者の欲しい情報が反映されていない場合が非常に多いんです。マーケティングでは、上流で決めたコンセプトを一貫して守りつつも、各売り場のディテールに合う最適な訴求方法を見極めることが重要だと思います。
ーお互いに期待することはありますか?
青﨑:今回のM&Aにより、これまで見ることのできなかった景色や、想像していなかった価値を作ることが出来ると思うと、非常にワクワクしますね。フリップデスクが、マテリアルグループの一員として描く未来に期待しています。
佐々木:青﨑さんの感覚と非常に近いですね。新しい価値を生み出すために、形になるまで互いに諦めずにやりきることのできるメンバーと環境があると思っているので、これから一緒に突き詰めていきたいです。
青﨑:自分にできないことができる人たちが周りにに集まってきてくれて非常に心強いです!
佐々木:頑張ります(笑)