■対談者プロフィール
川口 真司:ルームズ代表取締役社長
1998年、株式会社ルームズの創立メンバーとしてタイアップ市場の創出に尽力。2004年に同社代表取締役に就任し、ルームズのプロダクトプレイスメント事業の拡大を牽引。2013年にはファッションスタイリストの組織化による事業改革に着手し、自身もスタイリストとして従事。2021年マテリアルグループと資本業務提携を結ぶ。
青﨑 曹:マテリアルグループ代表取締役社長
2011年、創業間もない社員数名の株式会社マテリアルに入社。主要アカウントのプロモーションからPRまで多岐に渡る領域を担当し、マテリアルの急成長を牽引。2019年にマテリアルグループ/マテリアルの代表取締役社長に就任。代表就任後は旧来のPRエージェンシーの枠に囚われない新しいグループのビジネスモデル・組織の開発に尽力。
未来を見据えてワンステップ上がりたいと思わせてくれた
ー事業内容(プロダクトプレイスメント / スタイリング)について教えてください。
川口:ルームズのメイン事業のひとつであるプロダクトプレイスメントは、映画やドラマなどの映像作品の中で、出演者の衣裳や小物として実際の商品を登場させ、商品・サービスを認知してもらうマーケティング手法です。こうした映像コンテンツの中で、自然な形でストーリーの一部として商品やサービスを認知してもらうことができます。現在では、劇中に登場した商品がネット上で話題になることも多く、生活者の購買行動に大きく繋がっています。プロダクトプレイスメントの誕生は、1955年公開のハリウッド映画『理由なき反抗』で、主演のジェームス・ディーンがポケットから櫛を取り出し整髪するシーンを見た若者たちが、「あれはどこで買えるのか?」と配給会社のワーナーブラザーズに問い合わせたことが起源だと言われています。また、プロダクトプレイスメントは、常にアンテナを張りながらトレンドを吸収することはもちろんですが、作品やコンテンツを熟知し、メディア担当者との円滑なコミュニケーションを図ることが一番大事だと思っています。近年では、地上波ドラマに限らず、VOD作品も話題になることが増えていますし、企業やブランドのコミュニケーション戦略において、ますます注目されるようになりました。
また、もうひとつのメイン事業であるファッションスタイリングの主な取引メディアは、全国ニュース・情報番組がメインです。情報番組に出演するMCやコメンテーター、アナウンサーに対して衣裳や小物のファッションスタイリングをさせていただいています。このような情報番組は、社会的責任も高いので、出演者のイメージや衣裳サイズはもちろん、その日のニュースに合わせたコーディネートを作るように最大限の配慮をしています。例えば、予定している衣裳のネクタイが赤色であっても、当日に大きな火災事故があった場合には、すぐに差し替える必要があります。また、テレビ以外の企業CMやイベントなどのコスチュームメイキングも担当しています。いずれのメディアにしても、決して独りよがりにならず、相手が求めている意図を察知することが重要です。出演者の方々がストレスフリーにパフォーマンスを発揮できるスタイリングを一番に考えています。
ー今回、資本業務提携にチャレンジした背景にはどういった考えがありましたか?
川口:正直、どこかのグループ企業に参画することは考えていませんでした。その一方で、地上波テレビだけではなく、Netflix等のような動画配信コンテンツも主流になっている時代において、クライアントニーズも同様に変化しています。ルームズとして、商品やサービスが露出した先に、どういった付加価値を提供できるのか考えていた時期でもありました。今後のさらなる成長・発展をどう作り上げていくのかは、課題のひとつでもあったんです。そんな思いを抱える中で、昨年ご縁があり、青﨑さんとマテリアルグループの皆さんに出会いました。同じPR業界という業種の親和性や企業文化の相性だけではなく、青﨑さんのエネルギッシュな熱量に、「この人と一緒に仕事がしたい。この人と一緒により良い世界を見たい!」と一目惚れしてしまいましたね(笑)実際に、マテリアルグループに参画して3ヵ月が過ぎた現在でも、その思いは変わっていません。CFOを始め、CD本部やマテリアルメンバーの皆さんの知見や行動力には学ぶことばかりです。
青﨑:川口さんは、20年以上第一線の経営者として会社を大きく成長させてきた方です。今後、非連続的成長に入っていく段階となった時に両者が手を握れたら、成長スピードが早まり、今よりもサービスに付加価値を与えることができると考えていました。川口さんが、選択肢のひとつとしてグループ参画を考えられていた時期に出会うことができたのは、非常に幸運でしたね。ただ、初めてお会いした時はグループ関係者が揃って出向いたので、8対1とかだったんです。決して友好的な雰囲気ではなかったんじゃないかと思っています…(笑)
川口:実は、僕はその逆の印象だったんですよ(笑)マテリアルグループの皆さんに引き込まれていく感覚がありました。それは、皆さんのエネルギッシュな熱量や知見、雰囲気に惹かれたからだと思っています。この方たちと一緒なら違った景色が見れるんじゃないかという期待感を抱きました。僕の中では、年齢や経験値がすべてではないと思っているので、手を握る相手は、勢いを感じる方々がいいと思っていました。そうして未来を見据えた時に、「僕自身も、一緒にワンステップ上がりたい」と思わせてくれた瞬間でもありました。
グループ参画の決め手は事業シナジーだけではない「尊重」の姿勢
ー両者が手を組もうと思った決め手はありますか?
青﨑:これまで多くの企業と出会ってきましたが、事業シナジーが創出できて、さらに企業カルチャーも合致する企業というのはなかなかありませんでした。僕はこうしたプロセスにおいて、常に3つ条件を出しています。ひとつめは、事業シナジーを生み出せるかどうか。ふたつめは、僕自身と考えや価値観が合うかどうか。そして最後は、マテリアルグループのカルチャーと合うかどうかです。単純に事業シナジーだけでは意味がありませんし、僕と馬が合うだけでも意味がありません。その中で、ルームズさんとは、分かりやすくシナジー効果が創出できるだけでなく、勢いを含めてカルチャーが合うのも感じましたし、お会いした当日は、メンバー全員でワクワクしながら帰りましたね。
ただ、当時一番不安だったことは、オーナーとして自ら第一線で会社を率いられてきた川口さんに認めてもらえるのかということでした。パーソナルな部分を互いに理解し合うまで会話ができなかったんです。しかし、その懸念はその後すぐに払拭されることになりました。というのも、川口さんからお食事に誘っていただいたんです。通常は、プロセス中に食事をすることはご法度なんですが、公式的にお誘いいただけたことで、肩肘張りながら仕事の話をするだけではなく、自分の悩みも含めて互いのパーソナルな部分まで話せる貴重な機会になりましたね。その際に川口さんが、「青﨑さん、大丈夫ですよ!」と話してくださったんです。初めて周りのノイズを抜きにしてお話ができる場で、そのように声をかけてくださり、ほっとしたのを覚えています。
川口:PR業界の特性上、メディアの方々はもちろん、本当に多くの方々に助けられてきました。サポーターの皆さんがいなければ、ルームズはここまでは決して来られなかったと思っています。青﨑さんとの食事は、これからのルームズをより大きく発展させていくためにも必要なパートナーだと思わせてくれた食事会でしたね。
青﨑:川口さんが仰るように、多くの方に助けられながら育ててもらったという部分にも非常に共感しています。PR業界の中には、サポーティブな先輩方がたくさんいらっしゃいますよね。加えて、川口さんは常に社員へのリスペクトがあります。メンバーひとりひとりと向き合う真摯な姿勢が非常に伝わってきたことも決め手に繋がりました。
グループ間のスタッフ交流が企業成長に繋がる
ー今後の事業シナジーや、双方に期待することがあれば教えてください。
川口:クライアントに対して、それぞれの専門性を活かした一気通貫型のPR施策を提供していきたいと思っています。企業やブランドも、メディアに露出して終わるだけというPR手法はもう望んでいません。同時に、各ステークホルダーに対して企業姿勢や社会との関わり方を発信することも求められる時代です。商品やサービスのみのPRではなく、企業・ブランドがどのように社会的取り組みを行っていくのか。ここはまさに、ストーリーテリングを軸にしているマテリアルと課題解決に向けた施策が実現できる領域だと思います。また、同時期に参画したフリップデスク社は、ECマーケティングのプロなので、デジタル領域にも非常に期待しています。
現在は、各社間でのミーティングや議論を重ねれば重ねるほど、実現に向けて走りだしている実感が湧く日々です。その他にも、グループとしてのアセットを活用したサービス拡充やシナジー創出のみならず、グループ間のスタッフの交流にも期待していきたいですね。多くの人との出会いや刺激が双方スタッフの成長に繋がると思っています。
PRの概念をアップデートしていくために
青﨑:実は、事業シナジーにおいてはマーケットリーダーであるルームズと一緒になったことで、すでに成し得たことがひとつあります。それは、「日本で一番テレビ露出を獲得できるPRエージェンシーになったこと」です。すでに、量・質を含めてテレビ露出においては圧倒的強者になれたと思っています。その一方で、川口さんが仰る通り、マスメディアのみでアウトプットできれば終わりという時代ではないですよね。そこからさらに発展させた情報の二次流通や、テレビ露出後の事業の貢献にもコミットする必要があります。だからこそ、マテリアルグループは、そこまでを通貫してデザインできるPRエージェンシーにならなければいけないと思っています。そして、それは両者が手を組んだからこそ挑戦できる領域です。また、川口さんとは、PRの概念をアップデートしていくために、「革命を起こしましょう!」とよく話していますよね。
川口:そうですね。やはり海外と比較すると、PRやプロダクトプレイスメントの価値はまだまだ低いのが現状です。技術的な部分もありますが、より価値向上のために活動していかなければならないと日々感じています。しかし、ここ10年程で、PRや映像コンテンツが一気に変わってきたのも事実です。国内での反響はもちろんですが、台湾のようなアジア圏でも反響が大きいんです。日本のコンテンツが魅力的に見られていることは確かです。
だからこそ、両者の専門性やカルチャーを尊重しながら、「MAKE NEW PR」「ALL IN ALL ENERGY」を掛け合わせ、さらなる成長を期待したいと思います。