大丸有SDGs映画祭は、SDGsの目標の背景にある、世界の課題の実情や、その解決のヒントなどを、映画とトークを通じてお届けする映画祭です。3回目となる今年は、8月30日(火)~9月22日(木)に開催され、話題作を含む全10作品が上映されました。
日々の業務から少し離れたイベントで得たナレッジを共有
黒瀬:先日のマテリアルマガジンのインタビュー記事で紹介があった通り、マテリアルグループのESG/SDGsコミュニケーションを担うプロジェクト『Eagle(イーグル)』が開催してきた社内セミナーでは、SDGs案件をプランニングする際のフレームワークとSDGs事例をもとに、クライアントワークにおける考え方を社内で共有してきました。
今回、わたしたちが参加した『大丸有SDGs映画祭2022』は、日々のクライアントワークから一歩俯瞰して、これまで目が向けられていなかった社会課題に対して目を向けるきっかけとして活用してもらうことを目的に企画しました。本日の座談会では、映画祭に参加したメンバーそれぞれが映画を通して受けたインプットを社内のみならず、社外に向けてもシェアしていただきたいと思っています。
また、これまでにはクライアントの方々を含め、社外の皆さまからこうした社員参加型イベントなど、ステークホルダーの巻き込み方についてご相談をいただく機会も多々ありました。座談会の後半では、今後もこうした社員参加型イベントをするにあたり「どうすればより多くのメンバーがSDGs/ESG活動をより身近に感じ、実行していくことができるか」という点についても話し合い、イベントを通して得たナレッジをより広く共有していきたいと思います。
SDGsは、活動次第でポジティブかつ楽しい側面を生み出すことができる
―参加したきっかけや実際に映画を鑑賞した感想を教えてください。
道具:わたしは、『コペンハーゲンに山を/Making a Mountain』という作品を鑑賞しました。普段からペットボトルリサイクルの案件を担当していたこと、建築関係に従事している家族が多いことが参加のきっかけです。デンマークのコペンハーゲンにを作るというストーリーでしたが、施設の役割だけでなく、大きな公園やスキー場、ハイキングコースなど、多くの人の趣味に通ずる施設を建設するという大規模な題材でした。
平山:最近では、SDGsに関するプロジェクトを担当する機会が増えてきましたが、SDGsの知識はほとんどなかったんです。そんななか、クライアントに向けてSDGsの切り口や最新事例を提案していきたいと感じていたため、参加しました。これまで、SDGsは大きな課題とそこに向けた解決策という枠組みのなかで、マイナスな事柄をゼロにする作業だと思っていましたが、『コペンハーゲンに山を/Making a Mountain』のなかでは、建設されたごみ処理施設が街の人々の自慢になっていった。課題をマイナスからゼロにするだけではなく、楽しい側面やプラスにまでなる可能性があることを知りました。SDGsは、わたしが想像していた以上に身近でポジティブなものだったんですね。
菅松:わたしはもともとドキュメンタリー映画に関心があったのですが、このイベントはSDGsという切り口ではありつつ、映画そのものを楽しむことのできるになってた点にも惹かれました。わたしが観賞した『グランド・ジャーニー/Donne-moi des ailes』は、野鳥の雁を追う親子のドキュメンタリー映画でしたが、テーマでもある環境保全は日常生活のなかでは課題意識を感じることの少ないテーマでもあったので、新たな切り口として考えるきっかけになりましたね。
言葉の受け取り方は議論のひとつになる
稲生:僕が鑑賞した『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~/The Good Lie』は、難民がテーマの映画でした。難民という言葉・概念自体は知っていましたが、主人公に感情移入し、他人の困難を追体験できるフィクション映画を観たからこそ、当事者意識を高めながら深く理解することができました。そもそも、日本には多くの難民の方々がいるにも関わらず、僕自身はこれまで一度も出会ったことがなかったんです。実際は身近な存在であるはずなのに、そこには何かしらの障壁があるのかもしれないと改めて実感しました。
特に、難民は「難」という漢字を使うので、どうしてもマイナスな印象を受けてしまいます。だと思いますが、『これからはより多くの方に「困難を乗り越えてきた人々」という受け止め方をしてもらいたい』と講演会でもおっしゃっていました。また、業務では育児休業のプロジェクトを担当していますが、休みのニュアンスが強い略称「育休」ではなく、より育児休業中の実態を表す愛称として、「育業」を広めていこうという動きも始まっていますし、難民の表現についても、議論のひとつになるのではないかと思います。
黒瀬:鑑賞後の講演会は非常に勉強になりましたね。「難民」という言葉の受け取り方を変えていきたいと感じたのも彼らのトークがあったからこそ。PR会社として、イベントを開催する際には当事者の講演会などもセットで運営していこうと学びになりました。
世の中を巻き込みながら世論を動かす姿はPRに通底する
―映画のなかで特に印象的だったシーンはありますか?
道具:『コペンハーゲンに山を/Making a Mountain』では、建設費用の際限があるなかで多くの議論が飛び交っていました。避難経路を建設するシーンでは、予算の兼ね合いで提案された素材に対して、女性リーダーが、「この素材ではハイヒールをはいた女性が躓いてしまうじゃない」と反論し、奮闘されている姿が非常に印象的でした。日本ではたとえ冗談でもこういった議論にはならないと思いますし、この映画の裏テーマには“女性リーダーの活躍”があったのかなと思います。
平山:女性リーダーの活躍はすごかったですよね。作業員の方々が「細かな素材は遠くから見たら分からないだろう」と話しているなか、決して諦めることのない姿勢がカッコよかったです。また、彼女からは、建築現場の方々に対する“リスペクト”をひしひしと感じました。建築現場にはいわゆる下請けの方々が集って作業されていましたが、彼らを下請けとして扱うことは一切なく、ひとりのプロとして接しているシーンが印象的でした。
菅松:『グランド・ジャーニー/Donne-moi des ailes』では、はじめの頃、主人公たちは周囲の反対や抑圧を受けながら研究を続けていましたが、第三者の応援の声がSNSで可視化される、メディアが追い風になるなど、次第に周囲の賛同を得ていくシーンが印象的でした。世論を動かしていく様子はPRに通ずるものがありますし、ひとりの熱意でこれだけ世の中を動かすことができるんだと胸を打たれましたね
多様な価値観を取り入れて本質的なアイデアを見つけたい
―映画を観て深堀りしたいと思ったテーマや、今後に活かしたいことがあれば教えてください。
平山:鑑賞後の講演会では、SDGsと地方創生を結びつけたお話を伺いました。都会に魅力的な場所が増える一方で、地方からは急速に人がいなくなってしまう。地方に魅力的な場所を作ることはもちろん、その土地の特産品や廃棄木材を使用した家具をあつらえるなど、人工増加には直接的に響かずとも、地方創生につながる取り組みとSDGsは非常に相性がいいテーマだと気付きました。今後はより間口を広げて、自治体のPRにもつなげていきたいと思います。
稲生: より多くの企業で、難民の方々を積極的に採用していけるといいなと思います。言わばグローバルな視点を持つ人々ですし、困難を乗り越えてきた方々から学べるタフさはきっとあるはずです。実際に多数のプロジェクトを担当していても、同じようなチームメンバーで担当するため、似たような価値観を持つ人たちで進行することになってしまいます。似通った視点からは狭い意見しか生まれてこないので、より視野を広げていきたいです。実際に、法案を制定する官僚や政治家が、NPOや関連団体の方々と意見を交わしながら、現場の声を吸い上げて法案を策定していますよね。
黒瀬:そうですね。同じチームにさまざまな考え・価値観を持つ人がいることが重要ですよね。特に、PRの企画を立案する際は生活者のインサイトを分析する必要がありますが、難しいテーマなどはどうしても机上の空論になってしまいがち。多様な価値観を取り入れることで本質的なアイデアにもつながるはずです。
PR会社だからこそ、プロジェクトと社会をつなぐことができる
菅松:自分たちの価値観に偏って向き合っている点は非常に納得してしまいます。どうしてもデスクワークのみで企画を思案してしまいますが、果たしてこれでいいのだろうかという葛藤があるのは事実。本来は当事者の方々の意見を取り入れたり、関連団体とコミュニケーションをしたりと、多くの方々の考えを巻き込みながら進めていくべきだと思います。エージェンシーだからこそ、プロジェクトと社会をつなぐことができるはずです。
道具:最近ではメディアプロモートの際にも、メディアの方から同じような意見をいただくことが増えました。企業がリリースする案件は、どうしてもプロモーション色が強く出てしまう。SDGsの表面をなぞるだけではなく、より本質的かつ社会性のある切り口を求められていると感じます。
中野:エージェンシーであるわたしたちが、メディアが本当に求めていることや本質的な事例を紹介していかなくてはいけませんね。質の高い提案をしていくことで、単なるプロモーションという見え方とは変わってくるはず。“メディア露出”という一側面のみならず、幅広い視点を取り込んでいきたいですね。
多様な体験ができる場作りとそれらを支える環境作りへの取り組み
―今後こうした社員参加型イベントをするにあたり、「どうすればより多くのメンバーがSDGs/ESG活動をより身近に感じ、実行していくことができる」と思いますか。
稲生:映画は非常に親しみやすい媒体なので、参加の入り口としては理想的だと思います。来年以降も地道に継続していけるといいですよね。また、炊き出しなどのボランティア活動にも積極的に参加していきたいです。
菅松:そうですね。ボランティア活動も含めて、社内メンバーがさまざまな経験のできる体験型イベントを定期的に開催していくことで、新たな発見や社内ナレッジの蓄積にもつながりますね。個人的には、多様な人々が集う場から生まれる会話やコミュニケーションを通して、企画を思案する際の情報収集なども行っていきたいです。また、こうした体験型イベントを実施する際には、会社として「年間●日間を付与するから色々な体験をしてきてね」というように、全社的に推進していけるといいですね。
黒瀬:最も重要なのは、会社の雰囲気も含めた環境作りかなと思います。業務の効率面だけでなく、企画の段階からNPO団体に取材する、プロジェクトに関連するイベントに参加するなど、より自由にプロジェクトに入り込んでいける環境を作っていくべきだと感じます。メンバー同士の意識はもちろん、会社としてこうした活動にお墨付きを得られるよう、社内推進にも注力していきたいですね。